大阪地方裁判所 平成元年(ワ)1475号 判決 1992年3月24日
原告
金啓子
ほか三名
被告
住友生命保険相互会社
ほか一名
主文
一 原告金啓子の被告住友生命保険相互会社に対する請求を棄却する。
二 原告らの被告東京海上火災保険株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はいずれも原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告住友生命保険相互会社は、原告金啓子に対し、五〇〇万円を支払え。
2 被告東京海上火災保険株式会社は、原告らに対し、二二〇〇万円を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(被告住友生命保険相互会社)
1 原告金啓子の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告金啓子の負担とする。
(被告東京海上火災保険株式会社)
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 保険契約の締結
(一) 訴外金一秀(以下、「一秀」という。)は、被告住友生命保険相互会社(以下、「被告住友生命」という。)との間において、次の内容の生命保険契約(以下、「甲契約」という。)を締結していた。
そして、右契約に付加して締結された「傷害特約」第六条には、不慮の事故を直接の原因としてその事故の日から起算して一八〇日以内に死亡したときは傷害特約保険金(災害保険金)が支払われる規定になつていた。
(1) 契約日 昭和五七年六月一日
(2) 被保険者並びに契約者 一秀
(3) 第一保険金受取人 原告金啓子(以下、「原告啓子」という。)
(4) 第二保険金受取人 訴外崔南基
(5) 主契約死亡保険金(特別保障期間) 一五〇〇万円
(6) 傷害特約保険金 五〇〇万円
(二) 一秀は、被告東京海上火災保険株式会社(以下、「被告東京海上」という。)との間において、次の内容の自家用自動車総合保険契約(以下、「乙契約」という。)を締結していた。
(1) 被保険者 一秀
(2) 被保険自動車 本件車両
(3) 自損事故条項保険金(死亡の場合) 一四〇〇万円
(4) 搭乗者傷害条項(死亡の場合) 一〇〇〇万円
(5) (3)及び(4)の保険金受取人 相続人
2 事故の発生
次の交通事故が発生した(以下、「本件事故」という。)。
(一) 日時 昭和六二年三月一日 午前五時〇分ころ
(二) 場所 京都市西京区上桂北村町一番地先路上(国道九号線、以下「本件事故現場」という。)
(三) 車両 普通乗用自動車(登録番号、京五八は二〇二八号、以下、「本件車両」という。)
右運転者 一秀
(四) 態様 一秀は、本件車両を運転し、本件事故現場道路の西行車線を東から西に向かつて直進中、運転操作を誤り、対向車線にはみ出し、本件事故現場道路の北側歩道にある街路樹と衝突し、その街路樹を折損したのち、さらに歩道北則にある建物「京タンス」のシヨーウインドウに衝突した。
(五) 結果 一秀は本件事故により死亡した。
3 保険金請求権
(一) よつて、原告啓子は、甲契約に基づき、被告住友生命に対し、請求の趣旨記載のとおり請求する。
(二) よつて、原告らは、乙契約に基づき、被告東京海上に対し、請求の趣旨記載のとおり請求する。
二 請求原因に対する認否
1 被告住友生命の認否
請求原因1の(一)及び同2の各事実は、いずれも認める。
2 被告東京海上の認否
請求原因1の(二)及び同2の各事実は、いずれも認める。
三 抗弁(免責)
1 被告住友生命の抗弁
(一) 甲契約の傷害特約第一〇条一項六号には、「この特約のその被保険者が法令に定める酒気帯び運転又はこれに相当する運転をしている間に生じた事故」に起因する保険事故については災害保険金又は障害給付金を支払わないとの「保険者免責約款」が規定されている。
道路交通法一一九条一項七号の二、同令四四条の三、において規定されている酒気帯び運転とは、「血液一ミリリツトルにつき〇・五ミリグラムまたは、呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラムのアルコール保有状態」をさすところ、一秀は、本件事故当時、血液一ミリリツトル中、〇・九九ミリグラムのアルコールを保有していたのであるから、右法令に定める基準をはるかに超え、酒気帯び運転に該当することになる。
(二) 右約款の解釈については、「酒に酔つて正常な運転ができない状態での運転を原因として事故が発生したとき」の意味に限定して解釈すべき合理的理由はなく、前記法理に記載のとおりに解釈すべきである。
なぜなら、生命保険制度は、経済生活を営む個人が偶然の出来事の発生の可能性により脅かされている不安定な状態に対処するため考えだされた制度であり、同じような危険にさらされた多数の者につき大数の法則を応用した確率計算に基づき給付(保険金等の支払い)、反対給付(保険料の支払い)均等原則により合理的に計算される。
それ故、事故発生の蓋然性が一般に高いため法令により車両の運転が禁止され、その違反行為が刑罰に該当する酒気帯び運転中の事故による災害につき、災害保険金の支払いを免責されるとしても、生命保険制度の目的及び機能に反する不合理かつ不公平な約定とはいい難いのである。
2 被告東京海上の抗弁
(一) 無資格運転による免責
(1) 乙契約の保険約款第二章自損事故条項第三条第一項第二号及び同第四章搭乗者傷害条項第二条第一項第二号によると、いずれも「被保険者が法令に定められた運転資格をもたないで」被保険自動車を運転しているときに生じた傷害については免責と規定しており、この場合、典型的な無免許の場合のみならず、いわゆる無資格運転の場合をすべて免責とする趣旨と解せられる。
(2) 一秀の運転免許証の有効期限は、昭和六一年九月一八日までとなつており、本件事故当時、右免許証は失効の状態にあつたから、いずれも右各免責条項に該当することとなり、したがつて、被告東京海上は、右各保険金の支払いを免れるものである。
(一) 酒酔い運転による免責
(1) 乙契約の保険約款第二章自損事故条項第三条第一項第二号及び同第四章搭乗者傷害条項第二条第一項第二号によると、いずれも「被保険者が酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態で」被保険自動車を運転しているときに生じた傷害については、免責と規定している。
(2) 一秀は、血液一ミリリツトル当たり〇・九九ミリグラムのアルコール保有量が検出された。
一秀は、酒に強く多少の飲酒では正常な運転ができないおそれがある状態にはならない旨の原告らの主張については、酒に強いか否かは飲酒量と経過時間から酩酊度を推測する際には重要ではあつても、本件のように、血中アルコール濃度が判明している場合は余り関係がないが、仮に一秀が酒に強かつたとしても、事故当時、まだ分解されていなかつたアルコールの血中濃度が右数値もあつたことは、相当の酩酊度であつたと考えられる。
(3) さらに、一秀は、本件事故直前にアメリカから帰国しており、時差ぼけの状態であつた上、深夜まで稼働していたため疲労していた。
疲労や睡眠不足が、飲酒による酩酊の度合を高めることは公知の事実であり、仮に、一秀が酒に強く、アルコールに対する耐性が強いとしても、疲労や睡眠不足によつて右耐性が弱くなつていたと考えられるから、酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態であつたと強く推測される。
従つて、右免責条項に該当し、保険金の支払い義務を負わない。
四 抗弁に対する認否
1 被告住友生命主張の抗弁1の事実は争う。
後記2(二)のとおりに解すべきである。
2(一) 被告東京海上主張の抗弁2の(一)の事実は争う。
一秀の免許が失効中であつたことは事実であるが、これは免許証の更新手続を懈怠したにすぎず、更新後六ケ月以内であるから、適正試験に合格さえすれば新しい免許証が交付されたものである(道路交通法九九条、同法施行令三七条四項)。
一秀は、単に仕事が多忙なため更新手続に赴けなかつたにすぎず、運転能力及び適正につき何ら問題はないのであるから、このような手続失念の場合は、他の無免許運転に比し、その反社会性に格段の差があり、かつ、正規の運転免許を有している者に比し、事故発生の蓋然性が高まることはないものである。
よつて、本件の場合には免責事項には該当しない。
(二) 同2の(二)の事実は争う。
「酒に酔つて正常な運転ができないおそれのある状態」とは、単に飲酒又は酒気帯びではなく、道路交通法一一七条の二の一号にいう「・・・その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう・・・」と同義に解すべきであり、それは、アルコールの影響により正常な運転の能力に支障を惹起する抽象的な可能性一般を指称するものではなく、その可能性は具体的に相当程度の蓋然性をもつものでなければならず、右のようなおそれがある状態であるか否かは、一般的には、運転者の当時の言動、様相等の外部的徴候と、アルコール保有量等の内部的状況の双方から推測すべきである。
しかして、一秀は、酒に強い体質であつたから、事故後の鑑定による検出値程度で運転を誤るとは考えられない。
事故当時、路面は降雪のためスリツプしやすい状態であつたから、本件事故は一秀が右降雪のためハンドルをとられて生じたものである。
第三証拠
本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1の事実(保険契約の締結)及び同2の事実(事故の発生)は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、抗弁(免責)中、一秀が酒に酔つて正常な運転ができないおそれのある状態で本件車両を運転していたか否かにつき、次のとおり判断する。
1 前記争いのない事実に、成立につき争いのない甲第二、第三、第四号証、第一一号証の一、第一四号証の一、二、乙第二号証の一ないし一七、証人宮垣五男の証言、原告金啓子の本人尋問の結果(但し、右証言及び原告本人尋問の結果中後記採用しない部分をそれぞれを除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められ、右証言及び本人尋問の結果中の右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用しえず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 本件事故現場の状況は、概略別紙図面のとおりであるが、歩車道の区分された、平坦なアスフアルト舗装された東西道路(各幅員の数値は別紙記載のとおりである。)であり、現場付近は暗かつたものの、直線道路のため前方の見通しは良好であり、最高速度は時速五〇キロメートルに規制されてあり、北側の歩道に面して「京タンス」の建物があつた。
一秀の勤務会社である「株式会社京都志学社」から本件事故現場までの距離は全長約七キロメートルであり、そのうち現場手前の約四キロメートルは国道九号線となつている。
そして、現場より東方に「西大橋」があるが、橋の手前付近から本件事故現場までは直線道路となつており、約三パーセントの上り勾配が約一四〇メートル続いたのち西大橋に至り、橋付近約三四九メートルは平坦路となつており、そののち約一・五パーセントの下り勾配が約八五・二メートル続いたのち、約三パーセントの下り勾配が約九〇メートル続き、さらに約八七・二メートルの平坦路を西進すると事故現場付近に至ることになる。
(二) 本件事故の態様は、一秀が本件車両を運転し、現場道路の西行車線を西進し、本件現場付近にさしかかつた際、運転操作を誤り、センターラインを超えて対向車線に進入し、同車線を斜めに横断して北側歩道に乗りあげ、歩道上の街路樹を折損したのち、さらに歩道北側の建物「京タンス」のシヨーウインドに本件車両の前部を衝突させるに至り、その結果、シヨーウインド外側に設置されたシヤツター戸とウインドガラスを破損させたうえ、同所に車両前部を左斜めに突っ込んだ状態で停止したものであり、一秀の自損事故であつた。
「京タンス」の敷地内と歩道上には、タイヤ痕が印象されていたが、車道上にはタイヤ痕もしくはスリツプ痕等は印象されていなかつた。
事故による本件車両の損傷状況は大破状態であり、特に後部左側及び前部の損傷が大きく、前部左側に街路樹と衝突したと思われる痕跡が認められ、左側ウインドガラス及びリヤーウインドガラスが割損していた。
(三) 本件事故に至るまでの経緯及び事情については、一秀が仕事の関係で本件事故直前の昭和六二年二月一九日から単身アメリカ合衆国へ出張しており、同月二六日午後七時頃大阪に帰国したが、同日は原告啓子の実家に宿泊し、翌二七日は一旦自宅に立ち寄つたのち出社し、帰宅したのは翌二八日の早朝であつた。
そして、一秀は一旦就寝後の午前九時頃に出社したが、その日も遅くまで仕事をしたのち、帰宅途中、前記のとおり自損事故を起こしたものであるところ、何時、何処で、飲酒したのかは不明であるものの、事故後のウイニツク法によるエチルアルコールの定量分析の鑑定結果によれば、血液中のアルコール含有量は血液一ミリリツトル中〇・九九ミリグラムであつたことが認められる。
(四) 本件事故当時の気象状況については、本件事故当日である昭和六二年三月一日の京都地方気象台(京都市中京区所在)における観測によると、二時一〇分から五時二〇分まで、六時三〇分から七時〇分まで、八時一〇分から八時二五分までの時間帯にいずれも「にわか雪」が降つたことが観測されており、観測時刻九時〇分における積雪の深さは二センチメートルであつた。
同日の気温は、三時において摂氏〇・三度、六時において同〇・五度、九時において同三・〇度であり、同日の最低気温は、二三時五六分において摂氏マイナス〇・三度であつた。
前日の二月二八日一八時から翌三月一日六時までの天気概況は「晴れのち時々雪」であり、同日六時から一八時までのそれは「曇り時々雪」であつた。尚、事故当日の三月一日の六時〇分から七時〇分までに実施された実況見分における路面状況は「湿潤」と記載されている。
2(一) まず、原告らは、事故当時、本件事故現場の路面が「積雪」もしくは「凍結」しており、スリツプし易い状態であつたために、本件車両がスリツプして本件事故を発生させたものであると主張し、被告らは右事実を争うので次のとおり判断する。
前記認定事実に基づくと、二時一〇分から五時二〇分までの時間帯に降雪があつたことは前記認定のとおりであるから、気象台からさほど離れていない本件事故現場において事故発生時刻の五時〇分頃に降雪があつた可能性は充分うかがえるものの、それは俄に降りだしてもすぐに止む「にわか雪」程度であつたから降雪量は決して多くはなかつたこと(当時の天気概況も「晴のち時々雪」であつた。)、春先の雪は厳冬期に比し水分を含んでいて重く溶け易いこと、事故発生当時の気温は摂氏〇・三ないし〇・五度程度であり、当日の最低気温にまで冷え込んでいた時間帯ではなかつたこと、事故現場が川の橋上の地点であつたとか(現場は西大橋を通過した地点)強風下などの悪天候の重なりにより特に積雪もしくは凍結が促進される状況があつたとは認められないこと、九時に二センチメートルの積雪が観測されているが、これは妨害のない気象台の観測器の中における積雪量であるのに対し事故現場は深夜ないし早朝でも走行車両など相当の交通量が見込まれる幹線道路(国道)であつたから相当な降雪量がなければ積雪とまでは至らなかつたであろうにもかかわらず、降雪量はさほど多くはなかつたこと、実況見分時の六時から七時までの間にも「にわか雪」が降つたことが観測されているが、実況見分調書の記載には「積雪」も「凍結」もなく、「湿潤」と記載されているにすぎなく、右調書添付の写真原本をみても積雪をうかがわせるものは認められないこと、右「湿潤」の記載をにわか雪によつて路面が湿潤したものだと考えて矛盾をきたさないこと等、当時の降雪量、気温、現場の道路状況を総合して考慮すると、事故当時の路面は到底積雪もしくは凍結していたとは認めがたく、にわか雪が時に降り込んで路面を濡らしていた状態であつたと推認するのが相当である。
(二) 次に、一秀のアルコール保有量が身体に与えた影響状況につき判断する。
一秀の血中アルコール濃度は一ミリリツトル中〇・九九ミリグラムであつたことは、前記認定のとおりである。
右数値は、道路交通法一一九条一項七号の二、同令四四条の三に規定されている「酒気帯び運転の禁止規定」に該当し、その酩酊の程度は「第一度、即ち微酔(血中濃度一ミリリツトル中〇・五ないし一・五ミリグラム)」に該当し、それは平素の酒量及び体質などによつて個人差はあるものの、一般的には、陽気、多弁、運動過多、落ち着きがなくなるなどの症状がでて、本人はむしろ能力を増している感を持つが、厳密なテストを行つてみると、血中濃度が〇・五ミリグラムのときでも反応時間は正常(無アルコール)時の二倍となり、さらにそれが一ミリグラムになると四倍にもなるなど運動失調や作業能力の減退をきたしており、運転者としては危険であるといわれている。
してみると、一秀は、その血中濃度が一ミリリツトル中〇・九九ミリグラムであつたことに加え、前記認定のとおり、事故直前にアメリカ合衆国へ出張し、時差ぼけから充分回復する間がないうちに深夜まで稼働し、連日の疲労や睡眠不足がかさなつたところへ飲酒して運転したのであるから、一秀が酒に強い体質であつたたしても、このような場合、正常な運転能力に相当支障を及ぼしている蓋然性はかなり高いと考えるのが相当である。
(三) 又、前記認定の事故態様についても、現場付近は、西大橋の上り手前辺りから事故現場まで直線道路が続くため前方の見通しは良好であり、橋を下つてからもさらに約八七・二メートルもの平坦路が続く道路事情のよい国道であるにもかかわらず、街路樹の折損と車両や建物の損傷状況からみると本件車両の速度は時速五〇キロメートルの制限速度を遙かに超過していたものと思われること、車道の路面にはスリツプ痕やタイヤ痕等が印象されていないこと、スリツプのためハンドルを取られ制御を失つた場合にみられる迷走的な走行状態を示す軌跡は残されておらず、殆どブレーキ及びハンドル操作等の事故回避措置を執つたとは認めがたい軌跡を描いて直線的に歩道を乗り越え街路樹や建物に激突していること、その事故態様の激しさと異常さはそれまで正常走行をしていたとする本件車両が雪のためにのみスリツプして走行車線を逸脱したと考えられる程度を相当超えるものであること、仮に降雪もしくは凍結のためとすると、最もスリツプし易い橋の下り勾配約一七五・二メートルをスリツプしないで進行でき、平坦路になつてのち約八七・二メートル進行して現場付近においてスリツプしたことになるのはいかにも不自然であること等を併せ考えると、降雪もしくは凍結のためにスリツプしたとは認めがたく、飲酒の影響が大きかつたことをうかがわせるに充分である。
尚、鑑定人中原輝史は、その鑑定結果中(甲第六号証)において、西大橋上の平坦路面は「凍結」、現場路面を「雪氷路面」であることを前提条件にして事故発生の可能性がある旨の意見を述べているが、現場路面がそのような状況になかつたことは既述のとおりであるから、右意見は合理性を欠き、採用できない。
3 まとめ
(一) 被告東京海上の免責
以上、現場付近の路面の状況、アルコールの含有量、事故態様、本件事故に至るまでの経緯及び事情等を総合して考えると、一秀は、当時、乙契約の免責約款に定める「被保険者が酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態」にあつたと認めるのが相当である。
従つて、原告らの被告東京海上に対する請求は失当である。
(二) 被告住友生命の免責
甲契約の免責約款の解釈を、道路交通法一一九条一項七号の二、同令四四条の三に定める「酒気帯び運転」と同義に解する場合において、一秀のアルコール含有量の数値がそれに該当することは前述したとおりである。
又、「被保険者が酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態」と解する場合でもそれに該当することは前記(一)のとおりである。
従つて、原告啓子の被告住友生命に対する請求は失当である。
三 結論
以上のとおりであるから、原告らの被告らに対する本訴各請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 阿部靜枝)
別紙図面
<省略>